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執筆者の写真きたく子ども劇場We部

シアターディレクターズノート〜機関紙『輪』2018年1月号より〜


 チンパンジーは人間に最も近い動物です。知能や集団の生活、子育てなど共通点も多い。ですからチンパンジーと人間との違いから、人間だけの特徴が見えてきます。そんな研究者の本を読みました。

 チンパンジーも道具を使います。「クルミを石で割る」「シロアリを棒で釣る」など。そしてその文化は群れの中で伝承されていきます。そして集団では役割分担もあり、助け合って生きている事例も多くあります。

 ボタンを押すとエサが出てくるという実験装置があります。チンパンジーはすぐにボタンを押してエサを手に入れることを覚えます。今度はボタンをエサの口から遠くにします。すると1匹がボタンを押し1匹はエサを食べる。しかしいつまでもボタンを押す者は押し続け、食べる者は食べ続ける。ボタンを押す係が飽きてやめるとエサを食べる係もやめてしまう。人間だったら交代したり、ケンカになったりするでしょう。

 脊髄の病で顔しか動かなくなったチンパンジーがいました。いたずら好きの彼は、顔だけでもいたずらをし、おおらかな性格は変わりませんでした。人間だったら将来を気に病んで絶望したり、周りの世話に恐縮したりするでしょうが、チンパンジーにはありません。彼らは「今、ココ、自分」を生きている。人間だけが過去にも未来にも行き来し、遠い地の他人の不幸に心を痛めることができる。「想像する力」は人間だけの特徴のようです。この「想像力」の、みんなの幸せに生かすベクトルのことを「愛」と呼ぶのだと思います。

 この「ヒトのことを思う力」が<物語や芸術>を生み出しました。そして<物語や芸術>に触れることで、人間のみが持つ力「想像力」が育まれていくのだと思います。

 大人も子どもも「舞台芸術」を楽しむ暮らしは、人間が人間らしく幸福に生きることにつながっているし、このことが当たり前でない今、人間が人間らしく幸福に成長することが困難な社会になってしまっているのではないでしょうか。

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